2023年もよろしくお願いいたします。  寄稿者  青梅

コロナ禍は、マイナス面ばかりではなく、プラスの面もありました。とくに、読書の機会が増えたことは大きなプラスでした。おかげで、本から多くの喜びが与えられました。



つい先ごろも、「後世への最大遺物」内村鑑三(以下先生と呼ぶ)著の作品から喜びの恵みが与えられたばかりです。
先生が若い世代の人のために、伝えておきたいもっとも大事なこと(後世への最大遺物)をテーマに、1894年(明治27)、箱根、芦の湖畔で開かれた、第六回キリスト教徒夏期学校での講演内容を書き起こした作品です。後世に遺(のこ)していく価値あるものとして、「お金」、「事業」、「思想」を、そして最後に「勇ましい高尚なる生涯」を順番に挙げて、その説明と先生の思いが語られている作品です。

内容も、明治維新後の激動の時代に、自分は決して恵まれているとはいえない状況にあると思っている人たちに向けて、人々がどのように生きていけばよいのかという指針を示していました。それも、「上から目線」で、こういうことをすべきである、こういうことは我慢しなさい、と押し付けることなく、徹底的に弱者の視点に立って書かれている作品だと思いました。また、「人はこの世を去る時に何を後世に残すことができるのか」というテーマを哲学、文学、宗教、海外での知見など、先生の豊富な知識をベースに語っておられるからでしょうか、たいへん説得力がありました。

講演は二日間あり、二日目の講演にと読み進めたときです。
突如、「私に命をくれたこの美しい地球、この美しい国、この楽しい社会、このわれわれを育ててくれた山、河、これらに私が何も遺さずには死んでしまいたくない」と、先生の熱い思いが迫ってきたのです。
すると、いままで、「先生は若い人になにを伝えようとしているのだろうか」などと他人事のように、この本に向き合っている場合ではないと思えてきたのです。
さらに、読み進めて行くと、「資産家にも、事業家にもなれず、本も書けず、教えることもできなければ、役に立たない平凡な人間として、何も遺さずに消えてしまうのでしょうか。」と先生からの問いがありました。
作品のクライマックスだと思いました。(わたしが勝手に決めました)
すでに、わたしの気持ちは、先生の口から出る言葉を待つ者、読者と言うより講演の聴衆に変わっていました。

やがて、先生の口からでた言葉は「勇ましい高尚なる生涯」でありました。
続いて「世の中は悪魔ではなく、神が支配するものである。失望ではなく希望があるのが世の中である。悲しみではなく喜びに満ちた世の中である」と信じて生きていくことなら、誰にでもできます。と補足されました。
確かに前の「金」、「事業」、「思想」は具体的であり、詳細な説明だったのにくらべ抽象的なに思える言葉でありましたが、わたしには具体的な言葉として突き刺さりました。
それは、証しが生まれる人生が「勇ましい高尚なる生涯」であり、生まれた証し(文書)こそ「後世への最大遺物」と思えたのです。それは、熱い思いでした。

いま、新しい年を迎えました。
熱い思いは年を越しても冷めてはいません。
一年の計は元旦にありと申します。
わたしの「勇ましい高尚なる生涯」の始まりであり、「後世への最大遺物」への取り組みの第一歩になりますように祈りました。

2023年01月01日