春はせわしい    寄稿者   旅女

思いがけなくも鹿児島Familyツアーのメンバーに入れてもらって、地に足がつかないほどの幸福感に浸ったが、日に日に記憶の大袋はしぼんでいく。焦りながらメモを取ったことである。過去、ずっとそうしてきた。こうした旅行記は私にとってはかけがえのない財産である。それを心待ちにしてくださる友がいて、感謝この上ない。

そうこうしているあいだに桜が咲いてしまった。東京は満開だと報じている。我が家の近くではまだ満開ではない。7分咲きいうところか。早く見ないと散ってしまう。追い立てられる気分である。春はせわしい。

多少のアップダウンがあっても気温は確実に上昇している。衣類の選択もあわただしい。もう分厚いコートは無用だ。タートルのセーターも鬱陶しい。帽子もショールも要らない。首を出したい。手も春風に触れたい。足首回りも薄くしたい。寝具はもちろん一枚一枚剝いで行く。さあ、今後ひとしきりクリーニングに精を出さないといけない。

毎日毎日、できる限り歩いている。コロナ禍で知った新しい生活スタイルがずっと続いている。もう新しいとは言えない。日常になっている。いつの間にかコースが増えている。最初は同じ道を往復した。そのうちに行きと帰りの道を変えた。次は一本隣の通りになり、いまでは東西南北、隣接の区まで伸びている。疲れるとバスに乗る。小旅行ねと友人から言われた。そうなのだ、冒険の小旅行なのだ。心が弾むのは当然でしょう。

旧中川の土手の河津桜はニュースに報じられていたから昨今は有名スポットになっているらしいがもう終わりである。しばらくぶりに行ってみた。ソメイヨシノが主役になっていた。最後の橋「ゆりの木橋」を渡って江戸川区側をUターンした。日がまぶしいので日傘をさした。今年初めて使った。これからは手放せない必携品。時に杖になってくれるので。

春分も過ぎてこれからはどんどん日足が伸びていく。夏至までがいちばん好きである。夕方、ゆっくりと空を眺めて楽しめる。梅雨とその後の真夏は戦い多い日になっていくので、うかうかしてはいられない。春が進んでいく今が、一番うれしい時かもしれない。詩人は「春宵一刻値千金」と表現したが、私はこの時期は滝廉太郎の「隅田川」を連日歌う。そうだ、墨堤にもいかなければ。春はせわしい・・・。

2023年03月23日