創世記一四章

創世記一四章二三章
糸一本でも、くつひも一本でも、あなたがたの所有物からは私は何ひとつ取らない。

 この章では、アブラハムは今までのイメージからは想像できない武人として大活躍します。

アブラハムがヘブロンのマムレに天幕を張って穏やかに暮らしていたころ、周辺部族の領主たちは二手に分かれて大規模な戦争を繰り返していました。ついにロト一族が住んでいたソドム、ゴモラは敗れ、ロトは財産もろとも捕虜になってしまいます。それを知ったアブラハムは俄然、武装してしもべたち三一八人を引き連れて追跡し、ロト家族と全財産を奪い返すのです。おそらく、この時代、アブラハムのような移動民族は単に家畜を放牧するためにとどまらず、外敵の襲来に備えて日頃から武器も武力も備えていたと思われます。

 さて、ソドムの王はアブラハムに戦利品を取らせようとします。当然のことです。アブラハムこそ最高の殊勲者なのですから。ところがアブラハムはきっぱりとその当然の権利を辞退します。世の中と組んで戦ったのは、ひとえに肉親のロトを救うためです。ロト家族が無事ならそれで十分なのです。しかし、目の前に山と積まれた金銀財宝に目もくれないとは、めったにできることではありません。ところがアブラハムは『糸一本、くつひも一本―――』と跳ね返します。

 まぶしいほどの無欲であり潔さです。神様は目を細めて喜ばれたに違いありません。

2023年03月11日