創世記一六章

創世記一六章一六節
ハガルがアブラムにイシュマエルを産んだとき、アブラムは八六歳であった。

 どうしてこんなことになってしまったのでしょう、神様が『あなた自身から生まれ出てくる者が、あなたの跡を継がなければならない』と明言されたにもかかわらず、アブラムは何をどう取り違えたのでしょう、妻でもないハガルに子を産ませたのです。血迷ったとしか言いようがありません。サラは老女だからと思ったのでしょうか、ご自分だって老人ではありませんか。もっとも言いだしっぺはサラなのです。サラのアイデアももっともだと思ったのでしょう。

 サラは夫から神様の約束を聞かされ続けてきたでしょう。夫が悩むのを見続けてきたでしょう。子を産めない老いの身がどんなに悲しかったことでしょう。夫に対していいようのない引け目を感じ、身の置き所がなかったと思います。ついに窮余の決断をして女奴隷ハガルを自分の代わりに夫に差し出すのです。

予想通りハガルはアブラハムの子を産み、長子の母になるのです。しかし、ここに悲劇が生まれないはずはありません。理屈では分かっていても人間にはあらゆるものに先立って感情があります。感情がもつれもつれるのです。その結果、夫婦関係も、主従関係も惨めなものになり、アブラハムと神様の間にもすきま風が忍びこんだかもしれません。

 この悲劇で一番苦しんだのはだれでしょう。いちばん損な役割をしたのは、意外にもハガルなのです。

神様は苦しむハガルに近づかれました。 

2023年03月13日