水戸の偕楽園をはじめ、各地で梅まつりの便りが聞こえてきました。まだ空気は冷たく、指先に冬の名残が残るころですが、ほのかな香りが人の歩みをやさしくほどいてくれます。つぼみの奥で、春はそっと準備をしているようです。
二月二十五日は、菅原道真の命日にちなむ「梅花祭」。左遷された大宰府へ梅の木が飛んでいったという「飛び梅」の伝えは、離れてもなお主人を慕う心の物語として語り継がれてきました。事実かどうかを越えて、人の願いが花の姿に託されているように思います。
遠く離れること、思いが届かないと感じること。日々の暮らしの中にも、小さな“左遷”のような寂しさはあります。けれども、声にできない思いが、いつか誰かのもとへ届くと信じる心が、人を支えてきたのではないでしょうか。
梅は、まだ寒さの残る枝に咲き、先に香りだけを放ちます。見えないところで育つ思いもまた、時を経て形を得るのかもしれません。今はただ、静かな期待を胸に、ひとつひとつの季節を受け取って歩みたいと思います。