携帯はメールが多いのに突然音声の方にかかってきた。とっさに耳に当てる。娘からである。受け答えをしてはっとした。図書館の真っ直中であった。すかさず職員に注意されてあわてふためいた。
娘が外出したことは知っていたが、長男S君の帰宅時間は考慮の内だと判断して、図書館へ出かけてしまった。ところがもうじき帰ってくるからとのこと。しっかり施錠してきている。S君はまだ鍵を持っていない。帰宅時間には必ず誰かいることになっているのだから。
電話もそこそこに飛んで帰った。もちろん本も借りずに。と、ドアーがあいていて、M君は家に入っていた。
どうやって入ったの?
おばあちゃん(孫たちはひいおばあちゃんをおばあちゃんと呼ぶ。では本物のおばあちゃんである私をなんと呼ぶか、それはそれとして)が開けてくれたよ。
えっ、おばあちゃんが?私は不思議でならなかった。
ちかごろ、部屋の中の歩行さえ介助しているのに、廊下に出て、玄関に下りて、鍵をあけるなんてことがどうやってできたのだろう。よく転ばなかった…。
僕は15回チャイムを鳴らしたよ。そしたらおばあちゃんが開けてくれた。S君は私ほど驚いていない。
おばあちゃん、よく開けたね、玄関まで行けたの?お手柄だね。
近頃、めっきりほめることがなくなってしまった母へ、今日ばかりは甲を脱いた。
母には私の興奮は伝わらないらしく、S君が帰ってきたから開けたんだよと、当然のことをしたようにいう。以前はよくしていたことだから、違和感はなかったのだろう。
それにしてもと、私はいまだに合点がいかない。案外、やればできるのだろうか、世話のやきすぎかしらと思ってしまう。いやいや、油断はできない。そう言い聞かせてみた。
老人は赤ちゃん返りをするというけれど、おむつをした赤ちゃんがドアーを開けたとは聞いたことがない。老人の扱いはまだまだ若葉マークだなあと苦笑したことであった。