車中の読書  投稿者 希望の風(掲載日2006年5月27日(土))

またも東京は雨、雨、雨です。所用で外出しました。地下鉄を小一時間ほど乗るので、今日はこの本にしましょうと、再読、再々読の一冊を持ちました。こんな時は先き先きが読みたくなる本は避けます。たいてい座れるのは読書には好都合です。

付箋の入っているページのどこへでも飛び込んでいきます。半ページ読んでは目を閉じ、一ページ読んではまた目を閉じ、書かれていることを考えているうちに、そこから離れて、とんでもない方向にさまようこともたびたびです。周囲の人やゴーゴーと激しい電車の音がいつか気にならなくなり、非常な満足感を覚えます。手軽な別世界の味ではないかと思います。

以前読んだ長田弘のちょっと贅沢な読書風景を思い出しましたので、帰宅すると早速開いてみました。書き抜いてみます。

旅の書斎
いつでもすばらしい書斎と思うのは、遠くへゆく列車の指定席だ。ただ往復だけのように
思える新幹線の旅で、いちばんの楽しみはいつもその往復の時間の読書だ。
そこへゆくまでの時間にすぎないはずの時間を、充実の時に変え、椅子に窮屈に坐るしかない場所を、心のしきりをとりはらった空間に変えてくれるのは、読書だ。

世界一の速さを競ってきた新幹線という列車のなかに、いまはどこにもなくなってしまった、いちばんゆっくりしとした読書の時間がある不思議。
その往復の旅がくれるのは、とても貴重な土産だ。ずっと読みたかったこの本を読んだという、密かな充足感だ。長田弘著 詩文集『人生の特別な一瞬』晶文社より

長田氏のような、新幹線の指定席で旅に出るのはめったにないことですが、小刻みに電車に乗るチャンスはいくらもあります。長田氏のいう《心のしきりをとりはらった空間》を意識して作り、人の群れや騒音のど真ん中にいても自分だけの小宇宙を楽しみたいと思いました。

2025年05月27日