7月のある日、小さなお誕生会があった。
主人公は92歳のおばあさま。場所は都内の老人施設。
一年前までは一軒の家を構えていたが老いには勝てず、とうとう施設暮らしになった。
はじめは「こんなところに入ってしまって、もう終わりよ」などといっていたが、9か月が過ぎた。それまでは彼女の誕生月には何人かでランチ会をしていたものだった。
一人で外出はできない、ならばそこへみんなで行こうと、数人が集まることとなった。
施設には個人の部屋のほかに訪問客用の大きな部屋があるとのことで、それぞれ役割を分担して集まることとした。
私は讃美歌係になった。個人部屋は2,3人しか入れないが、大きな部屋でみんなで讃美歌を歌えたらどんなにいいだろう。教会に行ってない人もいるので私が選んだのは「まぶねのなかに」と「しゅよみてもて」だった。
おしゃべりの後で讃美歌を歌ったが、みんなが一つになったような気がした。そこにいた人たちはもうかなり昔に職場で生活を共にした人たちだ。小学生の子どものお母さんだった人たちは今はもうおばあさんだ。
ひとしきりのおしゃべりのあと、 「私ね、この頃この讃美歌が口から出てくるの」92歳の主役が披露し、みんなも口ずさんだ。現役時代によく讃美していた子ども讃美歌だ。
うるわしきあさも しずかなるよるも たべものきものを くださるかみさま
わがままをすてて ひとびとをあいし このひのつとめを なさしめたまえや
教会学校教師をしている人によると、今は口語のことばになっているらしい。
今、神様はここで私を守ってくださる、感謝、と次々に92歳から言葉が出てきた。
同じ施設にいる人の中で「ハレルヤ」としか言わない痴呆の方がいる、私も言葉が出なくなったら感謝の言葉を発したい、そんな感想を聞いて誕生会はお開きになった。
順番に皆が年を重ねていく。来年も集まれるといいなあと思う。