親指の棘    寄稿者 タンポポパラダイス

正月早々、板の間を歩いていると、右足の親指になんだか棘が刺さった感じがあって、それ以来、立ち上がるとズキンと痛むようになった。(あっ、棘が刺さったんだ・・・)
そう想って、指の先を診たのだけれど、棘が見当たらない。(もう、抜けてしまったのかも・・・)そう想いながらも、なんとなく、気になる。

バツの悪いことにお正月で、病院はどこもお休みである。難儀なことに、気持ちの悪い感触のまま、お正月を過ごした。
年始明け、掛かり付けの医院(内科)に向かい、それとなく、親指を見せた。医者は、門外漢だからか、何気に首を傾げた。
「軟膏でも出しておきましょうか」
と言った。(軟膏?軟膏で棘が治るの?)
不信感と失望を抱えて、初出勤した。軟膏の
効能か、なんとなく痛みが引いた感がしないではない。
それでも、やはり気になって、勤務先からの帰り路、ネットで調べた外科に、えいっと立ち寄った。
「親指に棘が刺さったようで、気になって」

さすがに外科医だ。親指を丹念に調べまくった。それでも、棘もガラス片も見つからない。
「なんか、もう無いみたいですよ・・・」
と外科医。診察料として、1000円程取られた。なんとなく満たされないような感じが
残った。(まあ丁寧に診てもらったし・・)
 初めて通院した外科医だ。こんな所にこんな外科医院があるのか・・・ちょっと、新しい情報。路地を曲がると古本屋を発見。「鎖国」「玉音放送(CD付)」という本が目についた。

棘ならぬ、ある奸ねい邪知なる野心家の、小さい心根に浮かんだ棘のような策略で、我が国が、270年間も幽暗に包まれた記録。
哀れなるかな、人々は、未だにその輩を「英雄」と崇めている。

もう一冊は、これまた、小さい淡々とした敗北宣言の声音データ付き書籍。この小さな声を聴くために、どれ程の難儀が重なったことか・・・。これまた、人々は、そこに至った不合理さに気づいていない。
更にちょっと行くと、おいしそうな「とんかつ屋」に遭遇した。こんな所にこんな店が
あったのか・・・と想いつつも、今日は、1000円の出費があったので、と思い直し、
1400円の定食を我慢した。次回の楽しみにしようと想いつつ。

それにしても、小さな棘のために、とんだ目にあった。なんとも不愉快な正月となり、同時に、計らずも新しい医院・古本屋・書籍・とんかつ屋に出会った。 

二人の医者の診たて空しく、小さな棘の正体は、まだ掴めていないままなのだけれども・・・。

2024年01月07日