柿食えば… 寄稿者 付箋

超多忙の尊敬するY氏から柿の一包みをいただいた。ご自分の庭の柿である。葉がついている。店頭に色よく形よく並んでいるのとは大違い。大きさもふぞろい、色の濃淡も激しい。それでいて生き生きとしている。この柿たちを撫でたであろう風や日の光や、木の上の空や雲まで見えるようだ。なによりも、ない時間を捻出してもぎ、包装し、宅配に出したY氏の心がうれしい。もったいない。友情が伝わってくる、愛がにじみ出ている。

おりしもネットの友が柿エッセーを載せていた。
『この私が大好きな柿を、熟すのを待って先ずヒヨドリが狙い、目白がつつきます。慌てて採ると、渋さに弱りはてますから大方は観賞用と心得ています』(無断拝借)
鳥たちのおやつに、大好きな柿を譲る友のひろやかな心に感動する。

柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺

枯れ枝に 烏のとまりけり 秋の暮れ

有名な句はついと口に出るが、さてさて、いつになったら私の一句が生まれるやら。

読みかけの『漱石俳句集』(岩波文庫)に柿の句があるかしらと、首をつっこんで探してみた。
意外にない。漱石の俳句は明治22年から大正5年までに約2600あるという。
この文庫本にはそのうちの846句が収められている。

柿の句を拾ってみた。

明治29年
    この里や  柿渋からず 夫子(有徳者)住む

明治30年
    樽柿の  渋き昔を  忘るるな

渋柿や  あかの他人で  あるからは

明治31年
    能もなき  渋柿どもや  門の内

明治33年
    渋柿や  長者と見えて 岡の家

明治43年
   渋柿も  熟れて王維の 詩集哉

漱石の柿は渋柿ばかり。渋柿がふつうなのだろうか。そのあたりの知識は皆無である。

渋柿と言えば、こちらは地方の知人だが、まもなく干し柿を作るから、年末頃には送りますと、うれしい一文があった。干し柿は大好物。それもお手製とは、もったいない。

いただき物の話しばかりですみません。愛を受けたら愛を返さねば。

2023年11月20日