私のコーヒー物語その2  寄稿者 道草

前回、コーヒーの話を綴っていたところ、母を思い出し
た。もう召されて12年になるが、コーヒーが好きだっ
た。と言ってもインスタントであった。一時期、日本中
がどこでもインスタントコーヒーだった。テレビも今よ
りずっと身近だったと思うが、コーヒーのコマーシャル
が大流行した。

母がいつごろからコーヒーを飲むようになったのか覚え
ていないが、わりに早かったような気がする。少しばか
り新しいものに目ざとい人だった。コーヒーは母の心を
くすぐったのだろう。我が家は当時のごくふつうの庶民
の家庭だったと思うが、小さな家計のできる範囲で生活を楽しんでいたと、母の生活の仕方を今ごろになって思い返している。

晩年、父と母はゆっくりと朝食を終えると、そのあとにインスタントコーヒーを淹れていた。テレビでおなじみの商品の瓶とクリープ、角砂糖を並べて、そばのポットからお湯を注いで、二人とも満足気にカップをかきまぜていた。そのころ、食卓のそばには必ず大きなポットがあった。もっと前は沸かしたお湯を注いでいたが、やがてコンセントがついて自動的にいつもお湯が沸いていた。

母が80歳の時に父が召され、その後88歳から寝たきりになったが、それまでは一人でコーヒーを楽しんでいた。介護の始まった最期の2年間は、勧めても口にすることはなかった。

私には父と母の座に加わってコーヒーを真ん中に話し込んだ覚えはない。母が一人になった時期も、母と二人でおしゃべりに興じたこともあまりない。仕事にかまけて冷たい娘であったと、時々心の痛むことがある。今朝の私のコーヒーは、ちょっと苦いかな。

2021年05月26日