母の裁縫箱 寄稿者  色えんぴつ

コロナで今までのような生活ができなくなったが、だからこそ新しい楽しみも出てきた。

子どもの頃から手仕事などしたことがなかった。学校の家庭科で習ったことぐらいで、やっとボタン付けができる程度の技しかもっていなかった。

母は昔の教育のおかげで和裁も洋裁も編み物もできた。ところが私ときたらそうした技術を身に着けていないことをいいことに、既製品で済ませていた。たまに母が娘たちに服を作ってくれたりした。おばあちゃんというものはそういうことが好きなのだと思っていた。

孫がいない私は小さい子の小物など作る機会もなく、母の昔懐かしい木の針箱のふたを開けるのはボタン付けぐらいなものだった。

ところが突然長いホームステイの日々が始まった。昨年マスク不足でなかなか手に入らなかった時に始めたのがマスク作りだった。裁縫道具も布もある。友達が作り方を教えてくれた。久しぶりに開く母の裁縫箱は母が使っていたころのままだった。絡まった糸はそのままだった。

小さい針穴に糸を通すのは難しかったがだんだん慣れてきた。

こうして布マスクができていった。箱を開くたびに天国の母との会話を楽しんでいる。

2021年05月08日