村田さんの薔薇 寄稿者 ルピナス

春の花壇はにぎやかだ。なかでも色鮮やかな深紅の薔薇は、コロナに疲れた日々の中で、特に存在感を放つ。春だけで はない、四季咲きのこの薔薇は休むことを知らずにつぼみ を付ける。

「村田さんの薔薇」と私は呼んでいる。昔、村田さんの庭から分けてもらった薔薇を挿し木し、幸運にも根付いたの である。

村田さんは教会の仲間だった。ご両親が賀川豊彦伝道に加わり、良き働きをされたと聞いていた。賀川豊彦農業塾に て訓練を受けたとのことだった。しかしながら村田さんは障碍者だった。お母様と二人、一軒家に住み、敷地で細々と野菜など植えて家庭菜園をしていた。

そのお母様が亡くなったとき、皆は村田さんはいよいよ施設に入るのかと思ったが、そのまま一人で二階建てのその家に住み続けた。

言語障害と手足マヒがある村田さんは他人との意思疎通は難しかったが、教会の仲間たちが何とか言葉を引っ張り出して交わりを続けた。そのうち村田さんは当時珍しかったワープロの機械を購入した。彼の行動はぐんと広まった。教会報にも投稿するようになった。
一人でスーパーに行って買い物し、庭の畑の野菜と一緒に料理し、そんな生活が長く続いた。村田さんは特別な人だと思う教会員は少なくなった。私はおかずをたくさん作ったときは食べてもらうことがあった。すると野菜がお返しに持ち込まれたりした。

そんなある日、村田さんの庭の真ん中にある見事な深紅の薔薇のことが話題になった。挿し木できるかもしれないと村田さんが数本枝を切ってくれた。土の相性が良かったからか、そのうちの1本が根付いたのである。
村田さんはその後高齢になり遠くの施設に入った。年に一度、教会員で遠足のようにお見舞に行った。村田さんはそのたびに声をあげて笑って喜んでくれた。

今、村田さんの家は持ち主が変わり、新しい家が2件立っている。そこに庭はない。薔薇はわたしの家に来て今年も咲き続けている。

2021年04月26日