重なる外出     寄稿者    銀鈴

今またコロナが不穏な動きをしているが、第7波が下火になったのを機に、外出が続いている。

過日、友人の所属する合唱団の演奏会があり、チケットが送られて来たので思い切って行ってきた。曲目は『メサイヤ』である。やはり心が弾む。会場はカトリックのカテドラルであった。『メサイヤ』にはふさわしい。それにも心惹かれた。合唱団はプロではない。歌の好きな人たちで構成されている。ソリストは経歴あるプロの方々である。舞台は中央に巨大な十字架の立つ講壇である。客席は例の木のベンチ。

演奏はすばらしかった。久しぶりの生演奏もあって、心の底から感動した。特に『メサイヤ』は聞き慣れたおなじみの曲である。合唱のいくつかは聖歌隊で歌ってきた。感動が倍加し、うれしいコンサートだった。しかし、2つほど私にはきついことがあった。一つは木のベンチに長時間座っていたことである。背もたれの無いのがつらかった。もう一つは帰りの時間である。夜が更けていた。この3年、夜に帰宅したことはない。体力の限界をありありと実感した。

このところ東京は小春日和の好天の日が続いている。寒さもきつくない。日差しはかなり強い。しばらく歩いていると上着が邪魔になるほどだ。地方の友人が出張の帰りに会いたいと言ってきたので、出かけて行った。秋には訪れたい上野公園で待ち合わせた。ついでながら、JR上野駅の公園口はすっかり様変わりした。改札口が変わり、駅前の道路が公園内に直結して車が通らなくなった。信号も横断歩道もなくなった。正面が東京文化会館、すぐ右手が国立西洋美術館、そのまま行くと上野動物園、右奥が国立博物館、都美術館、さらに芸大へと続く。いつ来ても新鮮で心が躍る。積もり積もった郷愁が香り出す。

紅葉はまだ半ばだが、それぞれの樹が思い思いに葉を染め、葉を散らしていた。春の桜もいいが晩秋の落葉も深い味わいがある。落ち葉の上を行ったり来たりして、足元から聞こえる落ち葉の歌に心を寄せた。こんな幸いがあるだろうか。友人も大きなキャリーケースを駅のロッカーに預けて、バッグひとつで歩を共にした。

まだ地方へ行く気持ちになれない。盛んに報じられる紅葉の名所にも心が動かない。心に刻まれている思い出の名所を旅している。「小さい秋」と、歌があるが、手と足の届く近隣で過ぎ行くつかの間の秋を楽しみたい。私も変わった・・・、老いたなとしみじみと思う。

2022年11月09日