二本の足     寄稿者 そよかぜ  

若い頃はよく自転車に乗っていた。どこへでも行った。
上手だと褒められた。自分でもその通りだと思っていた。
 
私が自転車を使わなくなったのは事故を起こしてからだ。
夜遅く帰宅を急いでいたので無灯火でスピードを出し、自動車と接触した。大事には至らなかったが、しばらくは強度の打撲で自転車に乗れなかった。あざが消えるまでに何日もかかった。
それ以来自転車に乗ることを控えるようになった。退職後は積極的に歩くことを目標にすることを宣言して自転車はきっぱりやめてしまった。二本の足があるではないか。むしろ歩く方が健康にはいいからと自信満々だった。
最近少し遠くの駅まで行くためにバスを利用するようになった。昔は徒歩二十分でついていたが今では二十五分かかるようになってきた。こんな時バスはありがたい。ところがバスの時刻は当てにならないことが多いことに気づいた。おかげで最寄り駅に着くまでにかなり時間がかかる。私の行き先はそこからさらに電車に乗ることが多かったので、なんとなく損をしている気持ちになることが多かった。
また外出のための荷物が多くなってきた。多いときはリュックをしょっていくことがある。
こんなことからまた自転車に乗りたいと思うようになった。

早速自転車屋さんに行ってみた。小ぶりの自転車があり、試しのりをしてみた。片足をペダルに乗せたとき、ふっと不安になった。体幹が傾いていた。こんなはずではない、焦る気持ちでとたんに足が上がらなくなってしまった。
水泳と自転車は一度体が覚えるとすぐに戻る、といわれている。80代90代でも自転車に乗っている人はいっぱいいる。それなのに70代の私はもう自転車に乗れなくなったのだろうか。

いやいや、神様からいただいた丈夫な二本の足があるではないか。どこへでも行ける足。
昔よく教会学校で歌った「けさもわたしのちさい足よ」、今は老いた足であるがまだまだ神様のお役に立たせてくださいと祈っている。

2022年07月17日