七十円     寄稿者 そよかぜ 

ぽとんと玄関で音がする。
郵便屋さんだ。午前十時半ごろ、我が家には郵便屋さんが来てくれる。
何が届いているか、毎回楽しみだ。無味乾燥な印刷物もあれば、大事な書類もある。広告も多い。一番うれしいのは私信である。
手書きの文字、切手の美しさ、送り主の名前、どれも心をゆすぶられる。だからこの瞬間はいつも満ち足りた気持ちになる。

外国からの郵便物は特に緊張する。旅先からの絵葉書はことにうれしい。
私は娘が外国に行くことになった時、定期便のように送ることにした。あて先は日本と同じ緯度にあるパラオである。家を出てずうっと南に行けばパラオに至る、と思うと不思議だった。
当時はがきではなく手紙を多く送ったが、郵便代はいくらだっただろうか。少しぐらい高くても飛行機に乗っていくよりは安いのだから、この郵便制度はありがたかった。

やがて娘はアメリカに住むようになった。
そのころは私もパソコンを使うようになっていたからメールでのやり取りになった。
やがてスマホの使用が始まり、ラインというものを知った。手紙やはがき、電話は、昔よりは高価ではなくなったが、いつまで話しても書いてもタダだというラインにはびっくりした。ただの仕組みはよくはわからないが、娘たちと私とでグループを作り、写真など交換するようになった。
そうなると手紙やはがきはいつの間にか遠のいていった。誕生日とクリスマス、何か送るとき以外はラインで済ます。そんな時この「70円」を知ったのである。

封書は110円。はがきは70円でアメリカに届くのである。なんということであろうか。日本国内は63円、アメリカはあんなにと遠いのに70円とは。
早速こどもの日にちなんでこいのぼりのはがきを送った。向こうには5月5日子どもの日はないだろうし、届くのはずっと後だろうけれども。

2022年05月03日