お大事に     寄稿者 そよかぜ 

重い腰を上げてやっと病院に行った。
暖かい春の日が続いた後の冬日で、朝から空が曇り、冷たい雨が降っていた。
久しぶりに行った病院は混んでいた。昔からそうだったので驚きはしなかったが、このような天気でもよく人は病院に来るなあと感心しながら待っていた。

中に一人、普通とは少し動きが違う若者がいた。受付のスタッフが声をかけながら手続きしていた。体が不自由なのか、歩き方がぎこちなく、受け答えに時間がかかっていた。彼より遅く入ったのだが、私のほうが先に席に着くことになった。もちろん診察は彼のほうが先である。

彼と再会したのはそのあとの薬局である。今は病院で薬をもらわない。そばの薬局でまたお世話になる。そこでまたあの若者の後に私が処方箋を出すことになった。
しばらくして彼が名前を呼ばれ、カウンターで薬をもらっていた。
「お大事に」
薬剤師さんが言った。誰にでも薬剤師はそういって最後の挨拶をする。すると彼は、
「ありがとう、お姉さんもお大事に」
若者はそういって薬局を出て行った。

なんだか温かい紅茶をごちそうになった気分だった。
挨拶には挨拶を返す、きっとそう教えられて大きくなったのだろう。決まり文句のように繰り返す「お大事に」がキラキラと輝く言葉になっていた。皆黙って二人のやり取りを聞いていた。このような寒い日に素敵な言葉を、ありがとう。

2022年03月22日