『数学者の休憩時間』 その1   寄稿者  付箋

ある時期、イギリスものを集中して読んでいた。それも日本人がものした一種の紀行文が楽しかった。

その道すがらで『はるかなるケンブリッジ』に惹かれた。タイトルにロマンを感じたのだ。

だが、著者が数学者だと知るとためらいがあった。数学がどうしても好きになれなかった若き日の苦い記憶のせいであろう。だがイギリスもの読みたさが偏見を押しのけた。
その結果、楽しく楽しく読んだ。続いておいしいものに手を伸ばすようにして『若き数学者のアメリカ』も読んだ。

この間、何よりも驚いたのは、著者があの『流れる星は生きている』の藤原ていさんのご次男だったことである。
正彦氏はさておき、『流れる…』くらい大きな衝撃を受けた本はない。

ていさんが5歳を頭に3歳と生後1ヶ月の赤ん坊の3人を連れて、満州から日本に引揚げてくるまでの死闘の体験記である。大きな波紋を呼んだ書物である。読後、よく人に勧めた。娘たちには再三勧めた。自分の現在地点を明確に認識させてくれる心の磁石のような書物だと思う。モットモット読まれていい本である。(続く)

2024年03月01日