一日に必要なこと 寄稿者 付箋

 私の好きな詩人の著書に次のような文章がありました。
『伯父さんがわたしにおしえてくれたことで忘れたくないことは、ひとは一人でコーヒー屋にいって一杯のコーヒーを飲む時間を一日に持たねばならない、ということだ』
含蓄のある一文です。文章の前で目を閉じてしばらく立ちつくしたくなります。

『伯父さんは死ぬ一ヶ月前まで、もう80歳を越えていたのだが、日に一度、かならず自転車に乗って雑木林のあいだの径をぬけて、街へ一人でコーヒーを飲みにいくのをやめなかった』
これもまた心を揺さぶられるいい文章です。

一日を、何かに追われるように走って走って、ようやくほっとして時計を見ると、無情にも二本の針はせわしく?時を刻みながら、一刻も早く就寝すること、明日がありますよとささやくのです。あまり抵抗はできません。自己の弱さを知っていますから。

そんなとき、ふっと詩人のことばがよみがえります。コーヒーを飲まなくてもいい、コーヒー屋に行かなくてもいい、でも一日に一度は一人で静かな時間を持たねばならないと思います。
クリスチャンですから、朝に夜に神様の前に静思の時を持ちますが、活動のただ中で、コーヒー屋さんでコーヒーを飲むように、神さまと二人になって、ほっとくつろぐときが必要だと、常々思っています。
    詩人は長田弘、著書は『私の好きな孤独』

2024年04月29日