藤原正彦著『国家の品格』(新潮選書) 寄稿者  付箋

今、話題の一冊に手を伸ばしてみた。過去に、藤原氏の作品ではたいへん楽しませていただいたので、期待があった。しかし今回のタイトルが今までになく固いのが気になった。『数学者の休憩時間』や『遙かなるケンブリッジ』は見ただけで心がときめいたが、今回のはなにやら物々しい。それでも、これまでの作品の味がなつかしくよみがえってくるので、ご飯のお代わりをするような気分で挑戦した。

相変わらず切れ味のよい舌鋒に感心する。数学者だからではなく、生来の明晰な頭脳と親譲りの文才が至るところではじけている。これくらいすっきりと自分の主張を文章化できたらどんなにいいだろう、しかも世に訴え、世人の共感を得られるとは、ラッキーなことだ。ラッキーとは適語でないかもしれない。氏の実力だろう。
 
いつもの感動はなかった。内容において共感がなかったせいだ。氏が断言する主張と私がひそかに抱く考えが大きく違うからだ。いい、悪いではない。

氏は資本主義の勝利は幻想、」論理の限界を知れ、武士道精神の復興を、国際貢献などは不要、この世界を本格的に救えるのは日本人しかいないと言われる。もしかしたらこれらは氏独特のポーズかもしれないが。

私はと言えば、世界を救えるのはイエス・キリストの十字架の愛だけだと大まじめに固く信じている。もちろん氏の説く情緒の文明を誇れ、ひざまずく心を忘れない、古典を読め、家族愛、郷土愛、祖国愛などを無用とは言わないが。

一人の人の主義主張を知り、自分のと比較吟味し、違いの根本を探って見るのは、たいへん有益であると改めて知った。そして、こうした意見を藤原氏は本で、私はブログで、自由に発言できる日本という国のあり方を、いいものだなあと感謝せずにはいられない。

2024年04月03日